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尾上右近

KENSYO vol.133
尾上  右近
Onoe  Ukon



尾上 右近(おのえ うこん)
1992年5月28日生まれ。曾祖父は六代目尾上菊五郎、母方の祖父には俳優 鶴田浩二。
7歳で歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で本名の岡村研佑で初舞台。12歳で新橋演舞場『人情噺文七元結』の長兵衛娘お久役ほかで、二代目尾上右近を襲名。2018年1月清元栄寿太夫を襲名。近年、歌舞伎俳優として目覚ましい活躍を見せるほか、テレビ・ミュージカル・映画・現代劇でも注目を集めている。2015年23歳の時、自主公演「研の會」をスタート、今年第八回公演を東京・大阪で開催。



役者と人間がイコールで結ばれるような役者でいたい。

 歌舞伎界の二刀流といえば、この人。いや、二刀流どころではない。気鋭の花形として立役、女形ともに大役を勤め、清元節の七代目清元栄寿太夫として舞台に上  がる。テレビのバラエティー番組ではユーモアあふれるトークを展開、ドラマや映画でも存在感を発揮する。
 「面白いことに対する興味と情熱と信じる力があれば、突き進んでいけます。そういう気持ちに出会えたのはやはり歌舞伎の力が大きいですし、先輩方に感謝しかないですね。本当に自分は幸せ者だなってつくづく感じています」
 歌舞伎に対する真摯な思い、愛は深まるばかりだ。
 愛称は「ケンケン」、ただいま32歳。父方の曽祖父は歌舞伎史にその名を刻む名優、六代目尾上菊五郎、母方の祖父は映画界の大スターだった鶴田浩二。7歳のとき、歌舞伎座での初舞台で踊った「舞鶴雪月花(ぶかくせつげっか)」の松虫役で、「天才子役、登場」と歌舞伎ファンを驚かせた。清元の宗家、清元延寿太夫の次男として生まれたが、歌舞伎の道に進むことを自ら選んだ。以降、抜群の芝居センスにたゆまぬ精進で花形役者の輝きを舞台で放っている。
 江戸の役者として、「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」の弁天小僧菊之助をはじめ、「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」のお嬢吉三など黙阿弥もので本領を発揮。一方、近年は近松門左衛門の作品など上方歌舞伎への挑戦が相次いでいる。
 平成三十年の自主公演「研の會」では、「封印切(ふういんきり)」の忠兵衛に挑んだ。上方歌舞伎の女形、中村壱太郎の梅川を相手に、悪友にあおられるまま、切れば死刑という公金の封印を切ってしまう忠兵衛の悲劇を上方の味わいをにじませながら演じ切り、この方面への可能性を感じさせた。
 今年二月には大阪松竹座で、再び壱太郎のお初とのコンビで「曽根崎心中(そねざきしんじゅう)」の徳兵衛役。純愛に殉じる若い男女の運命を鮮烈に表現。同年三月、京都・南座では「河庄
(かわしょう)」の治兵衛。長く成駒家しか演じていなかった生粋の上方和事芸に挑み、注目を集めた。
 「確かに、『河庄』は鴈治郎家の方しかほぼ勤められていないということは知っていましたし、上方の和事のお芝居ということで大変難しいものであることもわかっていました。でも、それ以上に、治兵衛は憧れていた大好きなお役で、勤めさせていただきたいという気持ちが強かったのです」
 治兵衛の人物分析も独特だ。
 「彼は不倫してDVするようなだめ男。今作は近松の最高傑作といわれていますが、だからこそ治兵衛はだめ男であっても愛される存在でなくてはならない。妻のおさんも、恋人の小春も、兄の孫右衛門も、みな治兵衛のことを心配しているのに、治兵衛は自分のことしか考えていない。完璧とは対極の人で、まさに、不完全な存在の吸引力こそが彼の魅力だと思うのです。実は僕も昔、役者として完全無欠を目指していた時期がありました。もちろん目標を持つことは大切だと思うのですが、失敗して泥んこになることも役者としての爆発力を持つために必要なのかなと思うようになりました」
 江戸歌舞伎から上方歌舞伎にまで芸域を広げ、困難と思えることにも果敢に挑んでいく。新作歌舞伎にも引っ張りだこで、「流白浪燦星(ルパン三世)」の傾城糸星、「刀剣乱舞(とうけんらんぶ)」の小狐丸、「風の谷のナウシカ」のアスベルなど、多彩な役どころを魅力的に造形する。そこに、人間国宝で、師匠でもある尾上菊五郎の薫陶があることは間違いない。
 「弁天小僧をはじめ、師匠に教えていただいたことはすべて自分の中の宝物です」ときっぱり。「音羽屋は自分の祖国という思いがあるからこそ、昨日は東、今日は西と、江戸歌舞伎も上方歌舞伎も新作歌舞伎もやっていけると感謝していますし、これからもそういう挑戦は続けていきたいですね」と意気込む。
 いま、右近と同世代の花形たちは人数も多く勢いがある。東京では年に一度、一月の浅草公会堂で「新春浅草歌舞伎」が開催され、三月の京都・南座でも令和三年から、二十代、三十代の花形たちが大役に挑む「花形歌舞伎」が定例化している。
 なかでも、右近が「愛しています!」というほど仲がいいのが壱太郎。今年一月の歌舞伎座では女形舞踊の最高峰「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」をダブルキャストで踊った。公演前には二人で作品の舞台となった紀州の道成寺を訪れ、成功祈願を行うとともに、土地の匂いや空気を感じ取ってきた。
 「壱太郎さんとはお互い青春って言ってますけど、最近、青春の色が確実に変わってきているのを感じます。助け合うという時代を経て、いまはぶつけ合う時期に入ってきている。でも、壱太郎さんに限らず、同世代の座組でやらせていただける公演は、みんなで遠慮なく密に話し合って舞台を作っていける楽しさが大きいですね」
 歌舞伎界において、右近の存在はある意味、特殊でもある。六代目菊五郎のひ孫という名門でありながら、父が歌舞伎俳優でなく、清元節の家元。それがいい意味でのハングリー精神につながっているようにも見える。
 「確かに僕の人生って、特急券はあるけど乗車券はないみたいな感じかなあと思います。六代目と血が繋がっているからこそやらせていただいているお役もあると思います。人の縁や時の運に恵まれて、乗車券のかけらを一つ一つ繋ぎ合わせて歌舞伎界の乗車券を手にしているという感じでしょうか。今後も自分の中の六代目の血を感じ、見守ってくれていると信じてやっていきたいですね」
 今年も、六月の博多座で「東海道四谷怪談」のお岩を初役で勤め、十二月の新橋演舞場では、歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」に出演が決まるなど活躍が続く。
 「役者と人間がイコールで結ばれるような役者でいたい。『芸は人なり』を大事にしていきたいと思っています」

インタビュー・文/亀岡 典子  撮影/後藤 鐵郎

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尾上右近自主公演 第八回「研の會」
8月31日(土)〜9月1日(日) 大阪・国立文楽劇場
月4日(水)〜9月5日(木) 東京・浅草公会堂
一、『摂州合邦辻』 二、『連 獅 子』

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