KENSYO>能狂言インタビュー バックナンバー
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KENSYO
vol.49
大蔵流狂言方善竹 隆司
TAKASHI ZENCHIKU
何を演じても
善竹隆司
では嫌なんです |
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善竹 隆司(ぜんちく たかし)
大蔵流狂言方。1973年生まれ。善竹忠一郎の長男。父に師事。故人間国宝善竹彌五郎の曾孫にあたる。'78年狂言「靭猿」で初舞台。「三番三」「那須語」「釣狐」を披く。兵庫県立宝塚北高校演劇科講師。神戸在住。'98年「神戸ブルーメール賞」受賞。 |
「まかりいでたる者は、このあたりに住まい致す者でござる」
派手な衣装も舞台装置もない。せりふだけですべて語られる狂言は、演じる人の個性が出る。同じ流派でも、それぞれの家のやり方もあり、同じ曲でも違いが出る。だから、どれをみるか、曲の面白さと共に、だれが、どの役をやるかも選択の一つになる。そんな面白さを、この春、初めて開いた〈善竹兄弟狂言会〉で見せた。
隆司さんは、『萩大名』の大名を演じた。長らく在京する大名は、萩の花で有名な庭園に出掛ける。詩歌を解さない大名に色々と智恵を授ける太郎冠者に大藏彌太郎さんの長男、大藏千太郎さん、庭園の亭主に茂山千五郎家の長男、茂山正邦さんを迎えた。同世代の長男三人が、一曲で顔をそろえることは珍しい。
やわらかみのある上方風、武家好みのかっちりした江戸風。同じ流派でも土地柄で風情が変わる。善竹家は「竹をすっぱり割ったようなからっとした狂言」を心掛ける。
それが、そのまま登場人物の個性となって興味深い会になった。
「自分たちの演じたい曲というのもありましたが、既存の善竹会ではやりにくい試みをしようと弟(隆平)と相談してやりました」と、人気曲を並べ、『二人袴』では、師匠でもある父の忠一郎さんと隆平さんと共演してみせた。
「兄弟会の一番のテーマは狂言ファンのすそ野を広げることでしたから、初めてみる方にも分かりやすい曲で楽しさを知って頂きたかった」。観劇後のアンケートには「次回はいつ」とか「面白かった」と好評で、来春も開く予定だ。
「また違った感じで狂言の奥深さを知ってもらえるようにしたい」と、励みにもなった。
最近は狂言の体験教室も増え、講師に迎えられることも多い。七月には、兵庫県立尼崎ピッコロシアターで、小学校高学年以上の男女三十五人を対象にした「狂言教室」で教えることになっている。
八年前から母校の兵庫県立宝塚北高校演劇科の講師も務め、能楽協会大阪支部教育特別委員として小・中学校など教育関係に働きかけている。おかげで「学校からも具体的に教えて欲しいという依頼もあります」と、会を開くだけでなく学校公演や体験教室にも力を入れている。 「子どもは古典だからとかジャンルにこだわらずに素直に能楽に親しんでくれる。楽しんでやっていますよ」と、情熱を傾けている。
「人間の強さや弱さを描ききって笑ってもらうのが狂言。同じ太郎冠者でも、智恵者もいれば、へまばっかりしているのもいる。人間性が豊か」とアピールする。演じていてもそこが魅力だという。
狂言の現行曲は約二百曲ある。段階を経ないと出来ない曲も多い。
五歳の時に狂言『靭猿』で初舞台を踏み、式楽『翁』で狂言方が勤める『三番三』や能『八島(屋島)』でアイ(狂言方)が仕方話をする『那須語』などの特別に伝授を受ける重い習物を経て、大学の卒業論文に相当すると言われる狂言『釣狐』を七年前に披いた。
「釣狐は心肺機能が要求される。狐の装束をつけて前シテ(前半の役)の狐の化身の白蔵主のいでたちになるので熱くて重いんですよ。その上に、四つ足動物が二本足で立つ姿を人間が表現する。精神的にも肉体的にも大変。完全に自分のものにして舞台に立たないとできない」と、半年以上けいこした。
次の披きは、妻の目を盗んで恋人に会いに行き浮気がばれてしまう狂言『花子』だが、これはけいこというよりも「役者として年齢と経験を重ねないと出来ない。せりふは型どおりに出来ても、プラスαの部分の裏打ちがないと花子にならない」。今しばらく時間が必要とか。
「師匠は父ですが、叔父の幸四郎に習う機会もありました。きっちりした感じになる父と違い、叔父は写実的で柔らかい独特の個性を放っていた。師匠の言うことを聞いて習うのが鉄則で、当時は、どっちの言うことを聞けばいいのかと迷いもありましたが、今、思うと、晩年に一緒の舞台で間とか呼吸をじかに体験出来て恵まれていたと思います」
所作やせりふなど型が決まっている中で、型をぎりぎり超えるか、超えないかのラインによって役者の個性が決まってくる。
しかし「何を演じても善竹隆司だといわれるのは嫌ですね。それぞれの役に応じた登場人物のキャラクターを引き出したい。これで終わりというのはない。ひたすら挑戦ですから」と、一生をかける。これからが楽しみな狂言役者の一人だ。
インタビュー・文/前田 みつ恵 撮影/八木 洋一
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