KENSYO>能狂言インタビュー バックナンバー
|
KENSYO vol.81 大蔵流 狂言方 茂山童司 DOJI SHIGEYAMA
あなたの知らない もっと面白い事がありますよ |
茂山 童司(しげやま どうじ)
大蔵流狂言方。1983年生まれ。父茂山あきらおよび祖父2世茂山千之丞に師事。3歳で初舞台。1995年に「花形狂言少年隊」に入隊、共に活動する。また2000年より2005年まで教育的古典狂言推進準備研修錬磨の会「TOPPA!」、2006年より再開した「HANAGATA」に参加するなど、狂言の普及を目指した活動をしている。その一方で、時代劇への出演や、公演を企画・制作・演出・出演まで手掛けるなど意欲的な活動をみせる。アメリカンスクールに通っていたこともあり、英語が堪能なバイリンガル狂言師である。 |
「手を合わす気にはなりませんね」茂山童司さんは、昨年十二月に亡くなった祖父君、茂山千之丞さんの体ごと笑っている写真にはこれまでどおり、生きている人へのように、「どうも…」と挨拶をしている。「お祖父さんが仏さんとか、別のもの、そういったものになっているとは思いたくないので」
そんな千之丞さんの、兄君の千作さんと新劇、オペラ、歌舞伎、ヌード能、西洋音楽との共演など、爆発し続けてきた挑戦的意欲。童司さんはその続きを、同世代の、HANAGATAのメンバー、正邦、茂、宗彦、逸平さんたちと、「怒られるまでやっていきたい、いや、怒られてもやりたい」。
誰もがやらなかった新しい試み。顰蹙を買うまでやろう、という千之丞精神の継承。それでいて童司さんにしか出来ない「笑いの起爆剤」が今、彼の内面でふつふつと身じろぎしている。
この数年、童司さんが面白い、今に何かやりそう、などのファンの声が高まっている。ただ、「さぁ、やるぞぅ」といった気負いではなく、その、あくまで自然体なしなやかさが風姿に漂うところが童司さんの魅力である。
そのしなやかさの原点はどこにあるのだろう。
プロテスタントの中学、高校時代。授業中にマンガを読んでいたら、めっちゃ叱られるけれど聖書だと「後で読みなさいね」と優しくたしなめられた。聖書が好きでこの期間に数回は読んだ。「訳の分からないところ」に興味があった。それは、父君あきらさんにも似たところがあり「利害関係、仕事の段取りを抜きにした友人関係としては、あきらは好きです」。わが子を心から信じる、お母様、絹世さんのおおらかな子育ても童司さんには良かった。
十七、八歳の頃。一九四〇年中頃からのアメリカのビート・ジェネレーションを代表する詩人で作家のジャック・ケルアックの作品を読んだ。「絶対的資本主義のニューヨークで、敗けると分かっていて、成功しないと分かっていて、ぼろぼろになりながらも突き進んでいったところ」に魅了された。ゲーリー・スナイダーの詩や、ボブ・ディラン。その他にもよく読みよく観て、よく聴いてきたものの要素が童司さんの内側に堆積していき、それらは、今、舞台に発揮され、あるいは時を得て爆発すべく待機中。
童司さんは、言葉の重みと軽やかさの醍醐味を熟知している。例えば「声高に、伝統を守ろう、といういい方は、かっこ悪いなと思う」。それを童司流にいい替えると「あなたの知らない、もっと面白い事がありますよ」。それを実践するのが出し手のやること。今こそ、コミュニケーションの本質を見つめなおす時代がきた。言葉は相手があって成立するもの。狂言も台詞をただいえばいいものではない。シテでもアドでも、その日の相手によって語り方、伝え方が変わるのが普通だけれど、時に、自分の台詞をいっているだけという相手に出くわすと、童司さんは対する台詞をわざと口ごもったりして、「いたずら」を仕掛ける。その間のずれに、観客に想定されていなかった笑いがはじける。ここではないはずの裏切られた笑いが、舞台と見所に新しい笑いのつながりを創出する。
狂言の舞台の他にも、さまざまな人たちとの交流が増えて、広がりを見せている。七年続く、詩人choriさんとのライヴ。ひたすら詩を書き、朗読するchoriさん。童司さんは言葉を彩る身体的表現や語り口などを工夫して演じる役割。その時は、童司さんもひたすら思いを伝える詩人となる。二人は常はあまり会わないが、公演前には意見を交わし、毎回、新しい舞台を編みだしていく。
また、不思議な仮面を掛け、小学生に英語を教えるNHK教育テレビの「プレキソ英語」。子どもたちとの付き合いでいろいろな発見があるという。最たるものは「子どもは、大人やなぁ」。相手の望む事を素早く察知してそれに応えようとしてくれる。コミュニケーションの真骨頂を、子どもたちが見せてくれる。
ところで、このごろ、ツイッターを見れば童司さんの動きが分かるという噂。常日ごろのどうでもいい発言で人をつなぎとめておき、良いと思う芝居や映画の宣伝をすると、必ず反応が返ってくる。フォローしてくれる人は五百人を越える。童司さんは九十四人をフォロー。百四十字の文章は例えば台本を書くのと同じように推敲する。
今年の『納涼 茂山狂言祭』では、京極夏彦氏作の妖怪狂言「豆腐小僧」の豆腐小僧を、逸平さんとダブル・キャストで演ることになった。千之丞さんの当たり役だった。小僧であってじいさん、という設定は、若い二人がやるには変えなければならない。今、演出のあきらさんの新たな台本を待っているところ。童司さんは、ただ年齢に合わせた台詞に変えるだけでは駄目で、前のがどうだったかにこだわらず、面白いものにしなければ、と笑いの策を練っている。
ドイツ公演で明日、早朝に発つという前夜。
率直かつ楽しく語ってくれた童司さん。来年に向けて、何か書き始めている様子。いよいよ爆発だ。「最終的にそれが狂言でなくてもいい」という。笑いがどのような形になって出てくるのだろうか。「人をわらかしたい」といっていた、幼い頃の彼の言葉をふと思い出した。
インタビュー・文/ひらの りょうこ 撮影/八木 洋一
●ページTOPへ ●HOME
|
|