KENSYO>歌舞伎・文楽インタビュー バックナンバー
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KENSYO vol.99
坂東 彌十郎
Yajuro Bando
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坂東 彌十郎(ばんどう やじゅうろう)
大和屋。1956年5月10日東京に生まれる。初代坂東好太郎の三男。’73年5月、初代坂東彌十郎を名乗り『奴道成寺』の観念坊で初舞台。’83年から15年間、三代目市川猿之助の門下に入り、猿之助公演や海外公演出演のほか演出助手も務め、坂東玉三郎「夕鶴」の演出や近年ではコクーン歌舞伎や平成中村座への出演等幅広く活躍。
’84年歌舞伎座優秀賞、’98年歌舞伎座賞、眞山青果賞奨励賞、2014年3月国立劇場優秀賞受賞。
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平成二十七年、話題を呼んだ歌舞伎NEXT「阿弖流為(アテルイ)」。坂上田村麻呂を利用して蝦夷征討を行い、権力を我がものにする右大臣、藤原稀継を堂々たる体躯を生かして演じ、存在感を見せつけた。
善と見えた人間が本性を顕わした瞬間の恐ろしさ。彌十郎さんの稀継には、権力者特有の得体の知れぬ凄みがあった。それは古典と新作、若い頃から両方で培ってきた芸の賜であろう。
舞台では威風堂々とした武将やクセのある敵役を演じることが多いが、素顔は温かく、親しみやすい。
「いやあ、二十八年は年男なんですよ。自分でも自分の年齢が信じられなくてね」と、明るい笑顔。舞台とのギャップがまた、魅力だ。
「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」で、昔暴れていた老侠客・三婦を大阪弁を駆使して演じたかと思えば、時代物の大作「熊谷陣屋(くまがいじんや)」の弥陀六では複雑な胸中を見事に描き上げる。また、松竹新喜劇を歌舞伎化した「幸助餅(こうすけもち)」では大関・雷に扮し、上方の義理と人情を体現した。
江戸の芝居から上方、新作まで芸域は幅広い。
「いろんなお役を勉強したいんです。昔はもっとみなさん、オールマイティーでいらしたと思うんです。
僕も関西のお芝居なら出来るだけ大阪弁を習得してやりたい。変だったら指摘してくださいねって言ってるんですよ」。いたずらっぽい笑顔を見せた。
若いころは、市川猿翁さん(三代目市川猿之助)の一座にいた。当時、猿翁さんは復活狂言、通し上演、スーパー歌舞伎など、江戸歌舞伎の魅力を再興させながら新たな歌舞伎作りに邁進していた。その仕事を横にいて学べたことが何よりの財産だという。
「歌舞伎のすべてを教えていただいたと言っても過言ではありません。二十四時間中つねに歌舞伎のことばかり考えていらっしゃいました。『とにかく感動しなさい』とも。人を感動させる仕事なんだから自分たちが感動できなければダメだよと」
もうひとり、多大な影響を受けたのは、十八世中村勘三郎であった。「勘三郎さんも歌舞伎のことしか考えていらっしゃらなかったですね」としみじみ。
立派な体格から、どうしても敵役や老け役が多くなる。そういうイメージを打ち破ってくれたのが勘三郎さんだった。「東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)」では、伊右衛門のワル仲間でお袖に恋する直助権兵衛、「俊(しゅんかん)」なら颯爽とした丹左衛門。「じっと見ていてくださって、稽古が終わるとたまに小さく指先で○(マル)を作ってくれるんですよ」
平成二十四年の澤瀉屋一門の襲名披露公演では、久々にスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の初演時に演じた熊襲兄タケルを勤め、客席の涙を誘った。二十七年には勘三郎の夢の劇場だった平成中村座公演で、「角力場(すもうば)」の濡髪長五郎はじめ大役を勤め、舞台を盛り上げたのである。
二十六年、長男の坂東新悟さんとの親子会「やごの会」を初めて開催した。
「これまでは尊敬する先輩方の夢にのっかっていた。これからは、自分の夢を合間に入れていければと思っているんですよ」
そこには、立役の自分と違って、女形の道を歩む息子への思いがある。第一回の「やごの会」では、「壷坂霊験記(つぼさかれいげんき)」と「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)・下の巻」を上演。ともに自身が立役、新悟さんが女形を勤めて成果を上げた。「やごの会」は継続していく予定で、二十八年はなんと、パリとジュネーブでの公演を予定している。
「二年に一回ぐらいは外国で歌舞伎のワークショップも続けていきたいですね。オペラが世界中で上演されるように、歌舞伎の劇場も各大陸に一つずつあるようになればいいなあと思っています。夢みたいなこと言って、と笑われるかもしれませんが、まずは思うことから始めたい」
六十歳を機に、これまでやったことのないような役どころにも挑んでいきたいと顔を輝かせる。そこには祖父の十三世守田勘弥への思いがあるのかもしれない。「十三世は若い頃、『関の扉』の関兵衛と小町姫の両方勤められたそうですから」
歌舞伎界きってのスイス通でワイン通。「還暦の誕生日は『やごの会』のヨーロッパ公演の時期。あちらでやろうと決めているんですよ」
還暦を前に、ますます気力充実。夢に向かって、ひた走る。
インタビュー・文/亀岡 典子 撮影/八木 洋一
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